Last updated: 2020/12/19

あやとりトピックス 121-130

「あやとり」のディスプレイ 2005/07/04

あやとりで遊んでいて指の間にすばらしいパターンが出現したときは、本当にうれしいものです。しかしながら、あやとりのパターンはほどけばすぐ壊れてしまいます。その美しさと儚さの対照が特徴です。それでも壊すのがもったいなく、少しの間でも取っておきたく思うことがあります。一昔前の「あやとり」の展覧会では、出来上がりパターンの紐をそのまま透明接着剤で固めて展示していました。ここでは別のディスプレイの方法を紹介します。

それは、出来上がりパターンをコルクボードにプッシュピンで止めるやり方です。こんな感じになります (写真画像は「白鳥」このあやとりの解説はこちら)。

また、コルクボードに直接ではなく、色紙とか布切れを敷くと見栄えがすると思います (写真画像は色紙を敷いた「雷鳥のつがい」解説はこちら)。

ボードを水平あるいはやや傾けて展示する場合はこれで問題ありませんが、垂直にして飾る時はパターンの紐が弛まないように相当ピンと張る必要があります。まだまだ、発展途上の方法です。「糸のたるみ」が解消できれば、このあやとりボードに額縁を付けインテリアとして部屋に飾ることができるのですが…。何か良いアイデアがあれば、ご教示をお願いします。

TS

「あやとり展覧会」in ドイツ 2005/06/26

5月8日から、ドイツ・ブレーメン市にあるブレーメン海外博物館で「あやとり展覧会」が開催されています《ISFA:String Figure Exhibit》。6月中旬、関連イベントにISFA代表 M. Sherman が講師として参加しました。ドイツ帰りの氏から、国内会員ならびにこのサイトの訪問者の皆様へのメッセージが届きました。

この展覧会はたいへん見ごたえがありました。館内には、子供向けのゾーンと大人向けの五つの展示室があります。アフリカ・南アメリカの展示室では、パングェの人々 (カメルーン、赤道ギニア、ガボン) のあやとりで表現されている鳥 (カンムリエボシドリ) の標本や楽器 (取っ手の付いた木琴) の実物を見ることができます。また、北アメリカ大陸の展示室では、ナバホあやとりとそれに関連する砂絵や星座の写真が並べて展示されています。このほか、極北圏、オーストラリア・太平洋諸島、そしてアジアの三つの展示室があります。

展示物を見るだけではなく、テレビモニターで過去の民族誌の記録フィルムを見たり、リスニングスペースであやとりに伴う語リや唄のテープを聞くこともできます。このように「あやとり」の奥深さを伝えるための様々な工夫が凝らされています。唯一の難点はドイツ語の説明しかないこと。カタログも立派な仕上がりですがドイツ語記述のみです。

なお、この会場の様子はオンラインで見ることができます。企画会社のサイト《Vontungeln》から入り、[better not] をクリック、会社入口のアニメ画面の中央にある「展覧会ポスター」をクリックして下さい(*)このサイトは存在しません

これまでに7,500人の入場者がありました。展覧会を通じて「世界のあやとり」を知ってもらうだけでなく、地元ドイツの伝承あやとりを後世に残す試みもなされています。運営メンバーの一人、Lothar Walschikさんは週一回高齢者の方々にあやとりを見せてもらっています。来訪者が子供の頃に覚えたあやとり (ほとんどが「二人あやとり」) を思い出しながら取る様子は博物館スタッフにより撮影され貴重な資料として保存されます。

ブレーメン海外博物館は長い歴史のある大きな美しい博物館です。そこでこのような本格的な「あやとり展覧会」が開催されたこと、そしてそのレベルの高さに深い感銘を受けました。この展覧会は、この後、スイスの「遊戯博物館」やルクセンブルグを巡回する予定です。そのうち、アメリカや日本でも開催できるといいのですが。

日本のあやとり愛好家の皆様も、夏休みにドイツに旅行される予定があれば、ぜひ、ブレーメン市の海外博物館にお立ち寄りください。06/24

Mark Sherman Acting Director, ISFA

この展覧会は8月21日まで開催されています。ドイツ語OKの方は、《ブレーメン海外博物館》のサイトをご覧下さい。このサイトは存在しません

(*) ブラウザ設定など何らかの問題で、「展覧会ポスター」をクリックしても展覧会の ‘バーチャルツアー’ が開かない場合があるようです。その時は《こちら》をクリックして下さい。このサイトは存在しません

〔追記〕

ジュネーブ湖 (レマン湖) 畔の町ツールドペイルズ (ローザンヌの東南東約15km) にあるスイス遊戯博物館で「あやとり展覧会」が開催されました。2005年11月25日から2006年4月23日まで → 《ISFA:String Figure Exhibit

Ys & TS

『綾とりで天の川』 2005/06/20

丸谷才一氏の新刊エッセイ集『綾とりで天の川』(*1)、なかなか語呂のいいタイトルです。オール読物連載中からこのタイトルに引かれて注目していたのですが、最後まで「綾とり」の話題はありませんでした。なぜこのタイトルなのか訝しく思っていましたが、単行本の巻頭言を見てようやく納得できました。氏は、ある綾取りの本(*2)を大事にしておられるとのこと。その本に収録されているあやとり作品についても一言触れておられます———それぞれのあやとりについては「世界のあやとり」のページで紹介しています:「五つ山」、「見てね」、「木のぼり男」、「天の川」。思わぬところにあやとりファンを発見してうれしく思いました。

さて、氏の博覧強記にいつものように驚きながら、一編一編を楽しく読んでいます。その中で印象深かったのは、マンモスの凍土漬けの話でした。それは「生のものと火にかけたもの」の章、氷河時代の話です:大型動物の死体は、寒冷地ではただちに凍るそうです。シベリアやユーコン河流域の永久凍土層では、数千年間も数万年間も凍っていることがある。そして、その肉は解凍すれば、鼻をつまめば食べられるそうです。ハイエナのような動物は冷凍肉を見つけても、冷たく固く歯が立ちませんが、人類は火で解凍して食べることができる…。人類に幸運と叡智があったというこのお話、マンモスのあやとりのこと (トピックス 005) や、愛知万博の冷凍マンモスのことを思いながら読みました。

最後になりましたが、和田誠氏の装丁も美しく、「あやとり」の描かれたカバー絵と扉絵はなかなか味わいがあります。

(*1)綾とりで天の川』丸谷才一 (2005) 文藝春秋
(*2)あやとり入門』有木昭久 (1980) 保育社
TS

結び目解析ソフト「KNOT」 2005/06/06

ウェブ上には様々なソフトが公開されています。このトピックスでは「あやとり」関連のソフトを二つ紹介しました (トピックス 089090092119)。今回、取り上げます結び目解析ソフト「KNOT」は児玉 (KODAMA) 氏が開発されました。《K.Kodama's page》の「KNOT」からダウンロードすることができます。

「KNOT」は、結び目研究のために開発されたもので、結び目を描き不変量等を計算するプログラムですが、これを用いてあやとりパターンを描いてみました。

このソフトを立ち上げますと、グラフィック画面とキャラクター画面が現れます。このグラフィック画面のキャンバスに、マウスでクリックしながら、ざっと、「あやとり」パターンを描きます。最後は、開始点に重ねてクリックしますと、一本ループのパターンができます。これをもとに、パターンを整えていきます。頂点や線を整えるには、[Edit-Move Vertex] をクリックして、修正モードに入り、頂点をドラッグして好ましいところに移動させます。また、交点の上下関係を補正するには、[Edit-Crossing] をクリックして、修正モードに入ります。そして、交点をクリックしますと、上下関係が変更できます。このようにして仕上げていきます (Fig.1)。

Fig.1 「すべて絡みの四段ばしこ」

さらに、[Others-Smooth Draw] をクリックして、[on] にしますと、なめらかな曲線が得られます (Fig.2)。ごつごつした感じがなくなって、「あやとり」らしい図となります。また、このソフトでは、[Edit-Add Components] で、複数ループを扱えます。

Fig.2 スムーズ化処理した「すべて絡みの四段ばしこ」

このソフトの [Invariants] メニューで、さまざまなパラメータを計算できます。あやとりは、「自明の結び目」ですので、ジョーンズ多項式を計算させますと、1となります (トピックス 089090092)。このソフトではあっという間に計算されます。あまりにも速いので、心配なぐらいです。結果は、黒い画面のキャラクター画面の方に表示されます (Fig.3)。計算予定時間、実際にかかった時間、計算結果が表示されます。

Fig.3 ジョーンズ多項式の計算

ソフトの作者には思いも寄らない利用法でしょうが、「あやとり」愛好家の当方にとっては非常に楽しいソフトです。


〔追記 2005/06/12

作図の際のコツを児玉氏からご教示いただきました。ありがとうございます。

  1. 複雑に絡み合う結び目/絡み目/あやとりパターンを描くのは一筆書きでは難しいものです。部分図を描き、後から繋ぎ合わせて完成する方法もあります。
    1. [Edit-Add Components]:任意の点(起点) を左クリック、ドラッグして線を引き、終点で再び左クリック。これで1本の線分が描けます。ここで、右クリックすれば線分が確定して描画は終了。次に、任意の点から別の線分を引くことができます (右クリックせずにドラッグすれば一筆書きとなります)。
    2. 2本の線分を繋ぐには、線分の一端を左クリック、別の線分の一端までドラッグして左クリック、右クリックします。
  2. パターンをざっと描いて変形する場合、描かれた線画の動かしたい区間が他の部分の下になっていないなら (over path という)、[Edit-Jump (over)] を選択して;
    1. 区間の開始点と終点を左クリックする、
    2. 区間を必要な形に左でドラッグして変形する、
    3. 変形できたら右クリックで確定、
    とすると、交点の上下つきで変形できます (結び目型が不変になるように交点の上下が自動的につきます)。なお、ii のところで、変形をアニメーションで見せるようになっています。
TS

『全日本仮装大賞』 2005/05/22

5月7日の夜、日本テレビ系列で『欽ちゃん&香取慎吾の第74回全日本仮装大賞』が放送されました。何気なく見ていますと、1本のループを使った作品が続けて登場しました。

最初は「クモの世界旅行」。クモの巣にクモが潜んでいるところから始まります。このクモの巣がほどかれると、何と一本のループで作られていたことが分かります。そして、この大きなループを用いて、「パリのエッフェル塔」・「日本の五重塔」・「ナスカの地上絵」・「オランダの風車」・「エジプトのピラミッド」・「サンフランシスコのゴールデンゲート」と、チームワークよろしく10人ほどの黒子が、次々と大きなパターン (輪郭) を作っていくことで、クモが世界一周をするというものです。パターンを作っていく過程も含め、次々と手際よくきれいに見せていました (最終的に準優勝)。これは「あやとり」ではありませんが、一本のループでの魅力的なパフォーマンスということで「あやとりダンス (トピックス 001)」を思わせます。非常に簡単な道具立てでありながら、なかなか面白かったです。

次は「スパイダーマン」。これは、スパイダーマンに扮した者が、クモの糸ならぬあやとり糸で、単純なパターンを作っては見せていきます。その見せ方には一工夫がありましたが、パターンが小さい上、先述の作品の直後ということもあり、高い評価は得られませんでした。こじんまりとした宴会芸としてなら楽しんでもらえたかもしれません。ループ一つという単純な素材も、ダンス、バレエ (トピックス 120)、そして今回の作品など、さまざまな演出があるものです。

ところで、初期の頃の『仮装大賞』で「あやとり」という作品がありました。太い長い紐を使い、クラスの生徒十数人であやとりパターンを作っていたような記憶があります。仮装大賞のサイトで調べると、第10回 (1998年9月17日放送) の努力賞を受賞していました。

TS

『大草原の小さな家』 2005/05/15

テレビドラマでもおなじみの『大草原の小さな家』。その原作にはあやとり遊びが出てきます。第20章 (真夜中のさけび声);暖炉のある部屋でメアリーとローラは、キャリーも入れて、「せっせっせ (Patty Cake, Been [Pease] Porridge Hot)」や「指輪かくし (Hide the Thimble)」、そして「あやとり (Cat's Cradle)」をしています(*1)

作者のローラ・インガルス・ワイルダーは1867年の生まれ。この作品はローラが6才の頃の家族の実生活を基に描かれました。ですから、当時西部開拓民の間で「あやとり」が知られていたことは間違いないでしょう (トピックス 041)。ところで、この ‘Cat's Cradle’ は「二人あやとり」です。一方、同じ時代、その大地の先住民たちは、神話・伝説を伴うさまざまな綾取りを伝えていました。一口に「あやとり」といっても、“子どもの遊び” から、文字のない社会で知識・知恵を伝承するための"記憶補助装置"としての役割(*2)まで、さまざまな存在形態があるのです。

『大草原…』にあやとりの記述があることを教えていただいた Emi M. さんにお礼申し上げます。

(*1) ローラ・インガルス・ワイルダー (1988)『大草原の小さな家』こだまともこ・渡辺南都子 訳、講談社文庫:pp.245
Laura Ingalls Wilder (1990) "Little House on the Prairie":pp.204 [原著の刊行は1935年]
(*2)

ISFA代表の Mark Sherman さんは W.Wirt さんとともにナバホの地を訪れて、それまで外部の人間に非公開とされていた神話・伝説を伴う綾取りを収集 (トピックス 030)。その論考「ナバホあやとりの文化的意味」の結語で、“あやとりは記憶を助ける工夫 mnemonic devices として役に立ってきた” と述べています。

この論考は、次の文献に発表されました。 Mark Sherman (2000) "The Cultural Significance of Navaho String Games" : In "String Games of the Navajo", by Will Wirt, and Mark Sherman; Cultural notes contributed by Mike Mitchell, BISFA vol.7: (pages 119-214): Appendix pp.186-214

また、「ナバホあやとり」のサイトにも全文が掲載されています。論考のページは:《Dine Education Web》→ Activities → Dine String Games → Cultural Significance をクリック。ナビゲーションは変更されています

なお、C. W. ニコル氏も同様の見方をされているようです (トピックス 005)。

TS & Ys

「あやとり」で交流 — 愛知万博 2005/05/08

読者からのメールです:

ご無沙汰しております.愛知万博に開幕より4月30日まで「岡崎匠の会」のメンバーとして,石彫作品展示,石彫り実演,来場者の石彫り体験手助けとして参加していました.

参加していました「地球市民村」に4月27日,インド・ナガランドの方々が来て機織りと竹細工の実演を見せてくれました.そのおり彼女らが「あやとり」をしているのを見つけたので,私もその「あやとり」の仲間にしてもらい,彼女達の「あやとり」の様子を写真に撮りました.

以前ISFA日本語サイトの管理人さんから「1904年セントルイス万博のおりジェーン夫人が「あやとり」を採取した」と聞いていましたので,私も万博で「あやとり」を採取することができ感動しました.

彼女達はひとりでとる「あやとり」,複数人で互いにとりあう「あやとり」,三人で引き合って伸ばしたり縮めたりして遊ぶ「あやとり」をみせてくれました.〈インド ナガランドのあやとり〉のページを作りましたので,「あやとり」の写真をご覧ください.このサイトは存在しません

05/02 (K.U.)

ナガランドは、ミャンマーと国境を接するインド最東北の地方です。これまでに、その南方のマニプール、ミゾラム州からは数種のあやとりが記録されていますが、ナガランド州からの報告はありませんでした(*1)

機織り作業の休憩時間にナガの女性たちが「あやとり」をしていたとのことですが、それはたいへん興味深いお話です。〈糸を扱う作業の合間に糸遊びをすること〉は、ナガの社会に限らず世界各地で行われていたと考えられます。「あやとり」が女性主体の遊びである社会においては、それが (意図的ではなくとも) 結果的には「あやとり」の主要な伝承形式となっていた可能性があります。日本でも、明治期までは 多くの家庭に機織り機が備えられていました。機織り仕事のかたわら、家族の年長女性から子どもたちへ「あやとり」が伝えられることもあったでしょう。その名残りが「毛糸の出てくる季節=あやとり」 (トピックス 115) であるとも言えましょう。素晴らしい写真、貴重な情報をありがとうございました。

あやとり愛好家の間では、1906年に刊行された C.F.ジェーン (1873-1909) の本が、いまでも高い評価を得ています(*2)。この書を通じて、世界に様々なあやとりがあることが初めて知られるようになりました。収録されている97種のうちの31種は、北米・フィリピン・コンゴの先住民からジェーン自身が収集したものです (トピックス 030)。ただし、現地へ赴いて採集したのではありません。1904年に開催されたセントルイス万博には、世界各地の先住民が ‘参加’ (会場敷地内に住居を建て、期間中はそこで生活—ありていに言えば ‘展示物’) していました。ジェーンはそのセントルイスを訪れ、短期間に数多くの「あやとり」を得ることに成功したのです。

昔も今も「万博」は、普段の生活では生涯出会えることのない人々との交流を生み出す場となっています。愛知万博では「遊びと参加ゾーン」にある《地球市民村》がそのような出会いの場所になっているようです。皆さんも、綾取り紐をポケットに会場へ出向かれてはいかがですか。言葉は通じなくても、Uさんの写真に見られるような楽しい出会いを体験できるかもしれません。

(*1) Hornell, J. (1932) "String Figures from Gujarat and Kathiawar" Memoirs of the Asiatic Society of Bengal 11(4):147-64.
Hornell, J. (1999) "String Figures from Burma" BISFA 6:145-148.
D'Antoni, J. (1996) "String Figures from India" BISFA 3:89-92.
Abraham, A. Johnston (1999) "String Figures and Tricks from the Assam-Burma Border" BISFA 6:133-144.
Wirt, W. (1999) "String Figures from the Indian States of Gujarat and Orissa" BISFA 6:113-132.
(*2) Jayne, C.F. (1962) "String figures and how to make them" New York: Dover - A reprint of the 1906 edition
Ys

K.U.さんの〈インド ナガランドのあやとり〉の動画はYouTubeで見ることができます。

k16 2020/12/03

モースの見た「綾取り」 2005/04/25

会員から寄せられた情報です:


《折紙探偵団》BBSにある前川氏の書き込みで見たのですが、大森貝塚発見で有名なエドワード・モースの『日本その日その日 2』の一節に、折り紙のほか「綾取り」もあるようです(*1) 3/26 (T)。

エドワード・S・モースは、1877年、東京大学から動物学教授の依頼を受け、アメリカから来朝しました(*2)。船旅で到着した横浜から岡蒸気 (汽車) で新橋へ向かう途上、その車窓から、露出している貝殻の堆積層を目撃。これが日本考古学発祥の地となった「大森貝塚」です(*3)。専門外の日本文化全般にも深い興味を抱き、陶磁器や民具などを精力的に収集して、本国に持ち帰りました。そのコレクションは、ボストン美術館やセイラムのエセックス・ピーボディ博物館に保管されています。

モースはその1877年からの7年間に三度来日、約33ヶ月滞在。当時の日記やスケッチをもとにした見聞禄『Japan Day by Day (日本その日その日)』が1917年に刊行されました(*4)。今年1月復刊された写真集(*5)が手元にあるといっそう面白く読めます。その書にあるあやとりについての記述は———「玩具や遊戯の多くは、我国のに似ているが、多くの場合、もっと込み入っている。一例として綾取をとれば、そのつくる形は、遥かに我々以上に進む。」(第15章 日本の一と冬:2巻, pp.220)。

また、エセックス・ピーボディ博物館所蔵の「モース文書」には、「日本人の室内遊戯」についての概略を述べた2ページの文書が保管されています(*6)。モースの研究をされていた守屋毅氏 (当時国立民族学博物館) によれば、「「日本人の室内遊戯」も、『その日』に相当量の記載をみるが、ついに、まとまった論文としては出版されなかったものの一つである」とのことです(*7)。氏はこの文書の一部を紹介されていますが、そこに「あや取り」の記述が含まれています:モースは単純な室内遊戯の例として、鞠、お手玉、あや取りを挙げ、「しかし、これらはすべて、我々のものより凝っている。あや取りは、はるかに多くの様々な組替えをやってのける。」と述べ、「日本の単純な遊戯のはなはだしい複雑さは、大人たちがそれらに興味をもっていることによるものと考える。」との見解を示しています(*7) (「」カッコ内のみ引用)。

モースの言う「あや取り」は「様々な組替え」とありますから、「二人あやとり」を指していると考えて間違いないでしょう。当時のアメリカでの「二人あやとり」は、8通りのパターンを取り合って終わりとした記録が残っています (トピックス 041)。他の取り方も知られていたとは思いますが、モースの記述からは、日本の子どもたちが糸の取り合いを延々と続けているのを見てびっくりした感じが伝わってきます。「日本人の室内遊戯」の本格的な論考が執筆されていれば、明治初期の「二人あやとり」についても、もっと詳しく知ることができたでしょう。そのことが惜しまれます。

(*1)折紙探偵団》掲示板 [(03922) by MAEK0]
(*2) モースの業績、年譜などは、東京大学附属図書館モース文庫
(*3) 品川歴史館大森貝塚
(*4) Morse, Edward Sylvester (1917) "Japan Day by Day", Boston (邦訳書:E.S.モース『日本 その日その日』全2巻 訳:石川欣一、東洋文庫、平凡社、1970)
(*5) モース、E.S. (2005)『百年前の日本 (モースコレクション写真編)』〔普及版〕、編/小西四郎、岡秀行、小学館
(*6) Morse, Edward Sylvester (1884) "Indoor Games of the Japanese" Proceedings of the American Association for the Advancement of Science, vol.32(Aug. 1883): pp.426-427
(*7) 守屋毅 編著 (1988)『共同研究 モースと日本』、小学館 :pp.155
Ys

映画『クジラの島の少女』 2005/04/10

ニュージーランドには、先住民マオリ系の人々が約50万人 (人口比約14%) 暮しています。そのマオリ人の先祖は、10~14世紀にワカ (航海用カヌー) に乗って、アオテアロア (現在のニュージーランドの島々) へ到達しました。では、アオテアロアへ移住する以前の居住地は何処なのでしょうか?言い伝えによれば、‘幻の故郷ハワイキ’ から出立したことになっています。その ‘ハワイキ’ は、マルケサス・ソサエティ諸島の辺りにあったようですが、特定はされていません。マオリ人はアオテアロアに定住してからの数百年間、独自の文化を築き上げました。しかし、17~18世紀西欧人の到来により、その文化は衰亡を余儀なくされ今日に至っています。

現在のマオリ人は一族それぞれに、自分たちの先祖が14世紀にカヌー船団を組んでアオテアロアに到達した物語 (カヌー伝説) を伝えています(*1)。その中にあって、“我々の祖先は唯一人でクジラに乗って到達した” という「クジラ伝説」を言い伝えている一族が実在しています。北島の東海岸のファンガラに暮す一族 (ンガティ・ポロウ) で、その村にある集会所の切妻屋根には、祖先パイケア (別名カフティア・テ・ランギ) がクジラに乗っている彫像が飾られています(*2)。この「クジラ伝説」を基にして描かれたフィクションが、ニュージーランドの国民的作家ウィテイ・イヒマエラの『The Whale Rider クジラの島の少女』。一族の指導者の家系に生まれ、女の子ながら祖先の名前「カフ」と名付けられた少女の物語です(*3)

この小説は、2002年に映画化され、世界各地で大ヒットしました。ご覧になった方の多くは、‘スーパー少女の活躍する感動のファンタジー作品’ の一つとして受け止められたのではないでしょうか。しかし、ファンタジーとはいえ、この作品の背景には数百年に及ぶマオリの人々の現実の歴史があります。原作者も監督もマオリ人、そして、主役級にマオリ人俳優を配したこの映画は、本国では並居るハリウッド作品を押さえ、6週連続一位の観客動員を記録しました。マオリの人々にとっては、この映画の成功そのものが、伝統文化再生の風潮をさらに活性化させる ‘新しい伝説’ となっていくのかもしれません。また、ロケ地に観光客が訪れるといった経済的効果も現れているようです。

さて、この映画の冒頭から20分頃、少女パイケア (原作ではカフ) の父親が個展作品のスライドを家族らに見せている場面、パイケアが綾取りをしています。映画館では見過ごしてしまうようなこのシーン、主演女優 (といっても、当時11才) の公式サイトで発見しました。《ケイシャ・キャッスル=ヒューズ》のメニュー [Photo Galleries] を開く → そのページの一番下にある [Whale Rider movie still-shots] をクリック→その画像をクリックすれば拡大されます(*4)このサイトは存在しません

このスチール写真を見た人は、「マオリ社会でも〈あやとりは女の子のひまつぶしの遊び〉なのだ」と読み取るでしょう。今の時代において、“それは間違いです” とは言えません。しかし、文字のなかった時代のマオリ社会における「あやとり」の役割や言い伝えを伴う個々の伝承パターンについての少しの知識があれば、この「パイケアの綾取り」の背後にある ‘描かれなかった物語’ に思いをはせることもできましょう。それについては、続編 (準備中) をお読みください。

付記:《Te Ara (The Encyclopedia of New Zealand)》(英語・マオリ語) について。このサイトには、古代から現代まで、‘ハワイキ’ 以前から映画『Whale Rider 』まで、マオリについての最良 (?筆者の知る限りでは) のコンテンツが含まれています。上述の「クジラ伝説」については、トップ・ページの右上にある検索欄 [search for...] に「paikea」と入力して [Go] すれば、関連ページがリストアップされます。パイケアの彫像や、映画シーンだけをご覧になりたい方は、同じ検索結果ページの上欄 [found] にある「Images & Media」をクリックして進んで下さい。

(*1) アントニー・アルパーズ 編著、井上英明 訳 (1997)『ニュージーランド神話 マオリの伝承世界』青土社:数編のカヌー伝説を収録。「アラワ号の航海」については、トピックス 036 もご覧下さい。
(*2) ロズリン・ポイニャント 著、豊田由貴夫 訳 (1993)『オセアニア神話』青土社:「クジラに乗って上陸したパイケア像」の写真があります:pp.113
(*3) ウィティ・イヒマエラ (2003)『クジラの島の少女』澤田真一、サワダ ハンナ ジョイ 訳、角川書店 (原著:Witi Ihimaera (1987)『The Whale Rider 』、Reed Publishing (NZ) Ltd.)
(*4) 映画の公式サイトでも、同じスチール写真をダウンロードしてデスクトップの壁紙にすることができます (画面サイズは3種類)。ホーム・ページ:「ENTER THE SITE」→「DOWNLOADS WALLPAPER」からどうぞ。(追記:このサービスは終了。映画の公式サイトはこちらへ変更。2006/05/18)
Ys

テレビCM -2 2005/04/05

3日の昼に、テレビを見ていますと、コマーシャルで「あやとり」をやっていました。花王のシャンプーのCMです。

女の子があやとりで「ほうき」を作ろうとしています。お父さんの仲村トオルが、“ひっくり返して、そう、そう、そう” と教えています。「ほうき」が出来上がり、続いて「家」を作っています。お母さんではなく、お父さんが娘にさりげなくあやとりを教えているシーンが、いいですね。

「細い髪もからまない」というCMコンセプトから、制作者は指に絡まずにするすると出来上がる「あやとり」を連想したのでしょうか。また、髪を指ですかしているところにも、「あやとり」をしているイメージを感じました。

花王ホームページにある [メリット] をクリックすれば、このCMのプレビューとメイキングを見ることができます (2005/04/04現在)

TS